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「紫苑くんは、お兄さんがいるんだっけ」
「……うん」
よしよし、と紫苑の髪を梳いて、安心させるようにさりげなく聞いていく。
「何歳差?」
「7歳差だよ。今26歳」
「へえ、社会人」
「弁護士してる。昔から優秀で、勉強も運動も勝ったことない」
「ふうん」
「ん、ここも兄さんが買った部屋」
「そうなんだ」
どんどん元気がなくなる紫苑は、優秀なお兄さんと比べて、コンプレックスを感じているのだろう。
紫苑は法学部だ。自ら進んでその道を選んだのか、選ぶしかなかったのかは、わからない。
あまり紫苑を傷つけたくない灯は、話したくなったら話してもらおうと、気持ちを切り替えた。
──の、だが。
「あ、どうしよう兄さんからメッセージ来てた」
「なんて?」
「終電逃したから泊めてって……」
ピンポーン。
タイミングよく鳴ったインターホン。
灯と紫苑は、お互い無言で見つめ合い、どうするべきか考えた。無視は良くない。
そもそもこの部屋はお兄さんが買った部屋で、紫苑は借りてるだけだ。
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