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そんな絶体絶命の灯の腰を、なぜか色気を出しながら抱いてくる蘇芳。
切れ長の瞳が灯を捉え、誘惑するように瞬いた。
「後にも先にも、俺が振り回されて夢中になった女はお前だけだ」
なんて破壊力のある口説き文句。と、微塵も揺すぶられない灯は冷静に思う。
残念ながら、紫苑がかわいくてたまらないので、他の男は眼中にないのだ。
「ごめんなさい、オニーサン」
ゆるり、一線を引いた灯に、蘇芳は瞠目した。
腰を抱いてる手を、ぺいっと雑に退けて、灯はわかりやすく蘇芳と距離をとる。
けど、行動に移すタイミングが遅かったようだ。
「──え」
唖然とした声。
立ち尽くす紫苑に、灯は身を固くした。
「……な、んで?どういうこと?」
「昔、彼女と関係を持っていた。今は切れている。再会したのは偶然。以上だ」
「ちょ、蘇芳さん」
「誤解を解くには簡潔的な方がいい」
ぽてぽて。寝室から歩いてきた紫苑は、蘇芳の要点だけ話した事実を、ゆっくりと理解していく。
そして、事態を飲み込めたのか、瞬きした瞬間に決壊するくらいの涙を目に溜めて、ぎゅっと唇を噛んだ。
逃げるように足の向きを変えた紫苑は、そのまま走り出し、
「いてっ」
ドテン、とドアに突っ込んで転ぶ。
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