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追いかけようとしていた灯は、勢い余ってドアに衝突した紫苑を前に、プルプルと上がってしまいそうになる口角を必死に抑えた。
絶対に笑ってはいけない、シリアスな場面だ。
でも、でも──……
「ふっ、ふははっ、かわいい……っ」
堪えきれず、灯は笑ってしまった。
両手で額を押さえて、えぐえぐと子どもみたいに泣き出した紫苑は「ゔう〜俺かっこわるい〜〜」と蹲る。
ことごとく灯のツボな紫苑。
紫苑に近寄った灯は、撫で心地のいい紫苑の頭に手を乗せて「そういうところが好きだよ」と慰めた。
「俺の灯ちゃん……兄さん取らないで……」
「ああ。今しがた振られたところだ」
「うっ、うっ、灯ちゃん、兄さんのこと好きになったらどうしよう〜」
「安心して、全く好きじゃない。紫苑くんが好き」
「……ほんと?」
「ほんと」
灯と紫苑のバカップルすぎるやり取りを見て、完全にダシにされている蘇芳は、苦虫を噛み潰したような面持ちで眉を寄せた。
「紫苑」
「……なに、兄さん」
兄弟の空気にしては、どこか歪。
けれど、灯は蘇芳の表情をみて、どこか安心した。
「ご飯は3食食べろ。腹を出して寝るな。同棲するなら報告しろ。定期的に連絡を寄こせ。あと、お前の彼女は、俺が唯一勝てない女だ。────大切にしろ」
ほら、やっぱりブラコン。
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