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疲れた様子でため息を零す先輩の顔をじっと見つめていると、急に亜未くんの手が割り込むように入ってきて、私の前でひらひらと揺れる。
「俺の名前、覚えてる?」
何故、覚えてないと思うのだろう。
ゆるりと口角を上げて、どことなく妖しさを漂わせる彼の名を、私は声に出して発した。
「皇 亜未」
語感のいい名前をフルネームで答える。けれど、また何かが彼のツボに入ったらしく、珍しく素で笑ってる姿を見れてしまった。
「私、何か変ですか?」
「ううん、面白くて最高。卯月 美愛ちゃん」
「フルネームのお返し、ありがとうございます」
「ふはっ」
面白いことをした覚えはないけど、楽しそうだからよしとしよう。
もう少し話していたい気持ちもあるけど、あと数分も経たずに授業がはじまる。
気づけば四方八方から視線が集中しているし、変なことをするなと友人に言い付けられてるから、ここはひとまず撤退だ。
「それでは」
猫耳の回収を忘れ、走る。
そんな私の背後で「三つ編みの奇人ちゃーん!」と誰かが叫んでいた。
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