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知らない二人
「あれ?一人?」
バーベキューの道具を片付け、キャンプ場の事務所で手続きを終えたマサミチが戻ってきた。
「はい、なんか残ってたもの片付けに行きました。会わなかったですか?」
「いや」
「主任こそ、奥さんは?」
「ああ、なんかトイレ行くついでにちょっと散歩だって」
「今日は気持ちいいですからね」
「でも低気圧来てるから、上がってくるらしいよ、気温」
「えーやだー。このくらいが良いのに」
いつもの休憩室のように軽く話していた。
マサミチの妻と私の夫はやはり同級生で、何度もやりとりするうちに、皆でキャンプ場へ行くことになった。
初めはぎこちなかったが、話すうち隔たりはなくなり楽しく過ごせた休日だった。
そろそろ日暮れが近い。
マサミチは自分が来た道をチラチラと気にしている。
「探してきますか?」
「ん?いや、大丈夫でしょ」
「でも、気にしてる。森だしね、心配しますよね」
「してないよ」
「…行きましょうか、探しに」
「いいよ、やめとこう」
やめとこう。
その言葉の意味を私はその時まるで考えていなかった。
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