知らない二人

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「行こう、徳永さん。戻ろう」 固まるわたしの腕を引いて、マサミチは来た道を引き返した。私は真っ白になった頭でぼんやりと、されるがまにままに足を進めた。 元の場所に戻った私たちは、まだ出しっぱなしのキャンプチェアに並んで座り、クーラーボックスの中の炭酸飲料を2人で分けた。 「ごめんね」 「……なんで、主任が謝るの?知ってたの?2人のこと」 「田舎ってさ、ああ、俺の実家の方ね。元彼が親友の旦那だとか、先輩後輩で元夫現夫とか、不倫相手が子どもの同級生のお母さんでそもそも元カノとか、あるんだよ。狭いから。そういうの込みで生きてんの」 「まあ、ありそうですよね」 「あの辺も、ちょっとそういうとこあるよね」 あの辺とは、私たちの住む町で、私の夫とマサミチの妻の生まれたところだ。 「うん、結構、関係は密かも」 「俺だけで確かめようとしてたんだけど」 「私が行こうなんて言ったから」 「とんでもない、覚悟もしてないのにあんなの見たら、ショックだよね」 小道をそれた木の茂るその奥で、夫とマサミチの妻は密接していた。陽が傾いて薄暗くなったその場所は、風もないのに二人の周りだけ、草の揺れる音がしていた。
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