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ぼくはただ、どこかに向かって歩いていた。
無感動なまま、いくつもの山を超えて、いくつもの町を通り過ぎてきた。
もう、どこを歩いているのかも分からない。
……歩き始めてから、どのくらいの月日が経過しているのかも。
ひょっとしたら、ぼくはもう何年間もどこかに向かって歩き続けているのかもしれなかった。
ぼくは今、知らない町にいた。日本のどこにでもあるようなありきたりな町だ。
だが、ぼくの目に映るものは、とてもじゃないがありきたりだなんて言えない。ところどころ窓ガラスの割れたビル、車道で固まったままの無人の自動車、無表情に消灯している信号機――世界の終わりのような光景が、そこには広がっている。
それらを横目に脇道に入ったぼくは、閑静な住宅街の中で立ち尽くした。
そこは、無音の世界だった。物音一つしない。
不思議の国にでも迷い込んでしまったみたいだ。アリスもハートの女王もチェシャ猫にマッドハンターだって、どこにも見当たりはしないけど。
ここもか、とぼくは思った。
世界がおかしくなってから、ずっと胸にわだかまり続けている虚無感が思い出したかのように首をもたげてくる。
この町も、今まで見てきた町と同じだ。
人っ子一人いない。
夏休み中の小学校のような静けさが辺り一面に張り詰めている。
不意に溜息がこぼれてきた。
ぼくに目的地はない。
でも、期待はしているのだ。
――どこかに向かって歩き続けてさえいれば、そのうち誰かに会えるのではないか、と。
だが、それはもはや希望的観測にすぎないのかもしれない。
この世界には、もうぼく以外の人間はいないのかもしれない。
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