終わる世界と宝物

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   そんなことを考えながら当てもなく住宅街をブラついていると、 「お宝発見!」      どこからか、女の子の声が響いてきた。 「っ!」  途端に鼓動が早くなる。誰かの声というものを久々に聞いた。    まさか……本当に?   幻聴じゃないよな?    鼓膜を揺らす僅かな余韻を辿りながら声のした方向に向かう。自然と歩調が急いでいた。    そしてぼくは、とある民家の前で立ち止まった。    ここだ。  先程の声は確かにここから聞こえてきた。    ドアの前まで行き、大きく深呼吸をする。震える右手を左手で押さえて、ノブへと手を伸ばす。    が、ぼくがノブを掴むよりも先に、 「あれ?」  ドアが開いて、女の子が中から出てきた。    栗色のボブカットに、セーラー服から覗く透き通るような白い肌。背はぼくより頭一つ分小さい。  あどけなさを残した顔に嵌められている活発な瞳がぼくに向けられていた。    歳はぼくと同じくらい、十代半ばといったところだろう。 「……」 「……」    しばしの間、互いに互いを見つめ合う。突然の出来事にぼくもその子も状況が飲み込めずにいた。   「人! 人! 人だ!」  先に我に返ったのはその子だった。 「すごい! 私以外にも残ってる人いたんだ! 幽霊じゃないよね?」  食いつくような問いかけに、なんとか頷くことで返答する。 「私ミクって言うの。あなたは?」 「……マコト」  譫言のようにぼくは言った。 「マコトくんね! おっけー! もう名前覚えたぜ!」  向日葵みたいな笑みが浮かんでくる。    その時になって、ぼくはミクが身の丈よりも大きいボロボロのギターケースを担いでいることに気づいた。 「それは?」  ギターケースを指して訊く。 「これ? お宝だよ、お宝!」 「……へ、へぇ」  意味が分からなかった。
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