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石の少年
ピエールは石のように言葉を持たない少年だった。
両親は既に亡く、親類の類もなく、ピエールは一人で暮らしていた。誰の家に連れ帰っても、必ずピエールは元の家に帰ってしまうからである。村人たちは持ち回りでピエールに食事を届けたが、それに対してピエールが感謝の言葉を述べたり、頭を下げたりすることはなかった。
ピエールは今を生きる人類だった。過去に誰が何かをしてくれたことを覚えてはいないし、未来をどう生きるかを考えることもなかった。
これまでに何人もの人間がピエールを真っ当なこと——たとえば勉強や仕事と言った生活の糧を得るための手段を教え込もうとしたが、ピエールがそれらの知識を吸収することはなかった。ただ石のように濡れはしても、いずれ乾いて何も残らなかった。
ピエールは日がな一日石を拾った。野へ入り、山へ入り、川へ入り、時に村人の庭に分け入り、石を持ち帰った。誰かがその行動を叱って咎めても、ピエールにそれが響く様子はない。ピエールはただ石のようにその場に佇むだけだった。
ピエールは何故石を集めるのか——その理由は誰にも分からない。ただそういう習性を持つ生き物としか言い様がなかった。幸い自然は豊富で石が尽きることはなく、ピエールは雨の日も風の日も、日がな一日石を拾って過ごした。
ピエールには別に名があったが、その行動からピエール(石/岩)と呼ばれた。仕草に反して大きい体や、石頭を揶揄する意味もあったかもしれない。だがピエールという名ほど彼に相応しい名はこの世に存在しなかった。
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