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ジリリリリと聞き心地の悪いベルが鳴り、千晴は大きな体を起こして目覚まし時計を止めた。
固い髪のせいであっちこっちにいっている髪をがしがしと掻き乱し、カーテンから溢れる朝日に目を細めて睨みつけた。
「……夢か」
千晴も星依もまだ幼稚園児だったかそれくらいの曖昧な記憶。昔は二人で手を繋ぐことも話すことも恥ずかしくなかった。
あの頃は今の千晴にとって甘すぎる。
「はぁ」
小さかった頃の面影が全くと言っていいほどなくなった自分と、面影を残しながら美しくなった星依を比べて千晴の口から溜息が漏れる。
千晴は成人男性の身長をゆうに超え、遺伝のせいもあってガタイはよく、所謂悪人ヅラで初対面の人には必ず怖がられる。
「はぁあ……」
千晴の口から更に深いため息が漏れた。御伽話の中にいるお姫様のような星依のそばに千晴がいれば星依が要らぬ反感を買うことは目に見えている。
でも、千晴は毎日と言っていいほど星依と一緒にいる。
星依が嫌だと言えば離れるつもりではいるが。
「……」
そう、星依が嫌だと言えばの話だ。
千晴は大きな手で自分の顔を覆うと深く息を吸って顔を上げた。カーテンを勢いよく開けて日差しを全身で受け、ある決心をして身支度を始めた。
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