第一話

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第一話

「そろそろ着くぞー起きろー」 ぶっきらぼうな声に、揺れる車内で目を開ける。 窓の外はもう22時を回っているとは思えないほどの人混み。 東京・渋谷 「とーちゃく」 その声にゆっくりとシートベルトを外すとタイミングよく開くドア。 夏を感じる夜の風がどこか心地よくて、微かに口角が上がる。 「え、あれって」 「やばい!そうじゃん!!」 「まって!!かわいすぎる!!」 「おいおい!!見ろって!」 「実物やべぇ...」 「牡丹、行くぞ。」 ざわざわし出す周りから遮るようなマネージャーの声で、撮影場所へと向かう。 背中を押されながら歩く視線の隅に、大型ビジョンに映る白いワンピース姿の私が日焼け止めを片手に叫んでいた。 視線を下げて緩く微笑みながら歩く周囲には、 少し離れた場所から興奮気味に手を振る人、 近くで遠慮気味に声を掛けてくる人、 友達と飛び跳ねてる人。 色んな人の視線が集まって気温を遥かに超えた、体感温度に頭が痛くなってくる。 「はい、危ない〜下がって下がって〜」 隣で大きい声を出しながら道を開けていくマネージャーの豊川は、色付きのサングラスに髭を生やし、ワイルドにオールドバックなヘアスタイルは一見ヤバいやつ。 コンビニで会ったら絶対に近寄らないタイプ。
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