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教育実習生
アラームの鳴る前に目が覚めた。カーテンを開ける。雲ひとつない澄んだ青空が広がっていた。まるで俺の心の中のようだ。
スマホを掴み『おはようございます。実習頑張ってください』と送信するとすぐに既読になった。『僕もおはようって送ろうとしてた。一緒のタイミングで嬉しいな。頑張ってくるね!』と返事が来てニヤける。
高校の正門前で肩を叩かれた。
「久志おはよ」
振り返ると渚先輩で、おはようございます、と挨拶を返す。
「その顔はうまくいったみたいだね」
「分かりますか?」
「うん、すっごくニヤけてる」
「告白はあんまりうまくいかなかったんですけど、付き合えることになりました」
ことのあらましを話せば、渚先輩が苦笑する。
「電話をかけ直したタイミングが悪かったね、ごめん! でも相手の人は僕に妬いたのかな? 僕にとって久志は仲の良い後輩なのにね」
「そのおかげで付き合えたので結果オーライですね。告白はやり直したいですけど」
「やり直せば? 毎日でも好きって言えばいいじゃん」
「そうですね! 毎日言います!」
下駄箱で別れ、いい気分のまま教室に入る。すぐにチャイムが鳴り、席に着いた。
ほどなくして扉が開き、担任と深月さんが入ってきた。
……なんで深月さんがここにいるんだ? 今日から実習で忙しいと言っていた。実習って教育実習だったのか。
しばらく会えないと思っていたけど、平日毎日会えるんだ、とニヤけてしまう。それにスーツが似合いすぎる。脱がしたい。
担任が深月さんの紹介をし、深月さんが教卓の前に立つ。
「白石深月と言いま……」
教室に目を走らせ、俺と視線が合うと深月さんは目を丸くして固まった。
「白石先生、どうかしましたか?」
担任に声をかけられ、深月さんは我に返って、すみませんと頭を下げた。
「知っている子がいて驚いてしまいました」
俺が手を振ると深月さんは眉尻を下げて悲しげな表情を見せる。……何で?
「遠藤ですか?」
「はい、……知り合いの弟さんです」
彼氏とは言われなかった。知られたらまずいのだろうか。それならば俺も深月さんとのことは黙っていよう。
深月さんは悲しそうな表情を引っ込めて口角を上げた。
「白石深月と言います。今日から三週間よろしくお願い致します」
『久志くんの家の最寄り駅まで行くから、夜に会えないかな?』
昼休みに深月さんからメッセージが届いた。学校以外で会えると思っていなかったから嬉しくてすぐに返信する。
『会えます。俺も会いたいです』
『終わったら連絡するね』
幸せすぎる。忙しいのに会いにきてくれるんだ。次は俺が会いに行こう。
「なにスマホを見ながらニヤニヤしてんだよ」
一緒に弁当を食べているツレに小突かれた。
「今日の夜、彼氏と会う約束したから」
「彼氏? 付き合ったのか?」
「マジかよ。久志は絶対無理に賭けてたのに」
全員が百円を出す。全員ダメに賭けていたらしい。
「お前らひどくね」
「いいじゃねぇか。次の休みはこれで祝ってやるから!」
背中を思いっきり叩かれて痛い。俺は千円にも満たない額で祝われるらしい。
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