58人が本棚に入れています
本棚に追加
高校生と大学生
深月さんから『今から電車に乗るよ』と連絡が来たのは十八時前だった。忙しいと言っていたからもっと遅くなると思っていた。
最寄り駅に着くと深月さんがちょうど改札から出てきた。
「待たせてごめんね」
こちらに駆け寄ってそう声をかけてくれる。
「全然待っていませんよ」
「ここら辺に落ち着いて話せる場所ってある? できれば周りに人がいないところがいいんだけど」
「小さい公園とかなら、この時間は子供も帰ってるだろうし人はいないと思います」
「連れて行って」
深月さんは表情が固い。会えば手を繋がれていたのに、今は並んで歩いているのに少し距離がある。どうしたのだろうか。
公園のベンチに座り、深月さんは膝の上で指を組み俯いている。
「あの、どうかしたんですか?」
声をかけるとゆっくりと俺と目を合わせる。口を開いては閉じを繰り返し、下唇を噛んで眉尻を下げた。弱々しい表情と同じような震える声で深月さんは言う。
「久志くんって、本当に高校生なの?」
「はい、そうです」
自分で言うつもりだったけれど、昼間に学校で会っているから、言うより先に知られてしまった。
深月さんは両手で顔を覆う。肩を落として時折あー、と小さな唸り声が聞こえた。
「あの、深月さん? 本当にどうかしたんですか?」
深月さんの様子がおかしいのは分かる。でも理由が分からない。
手を下ろしてこちらを向いた深月さんは、泣きそうな表情だった。
「え? 深月さん、大丈夫ですか?」
狼狽える俺に深月さんは首を横に振る。
「大丈夫なわけないよ。久志くん、僕と別れて。僕は高校生とは付き合えない」
深月さんの言葉に身体が硬直する。受け入れ難くて、頭の中が真っ白になった。
「じゃあ、僕は帰るから。久志くんも遅くならないように帰りなよ」
深月さんが立ち上がる。我に返って慌てて深月さんの手首を掴んだ。
「待ってください! 何で高校生だとダメなんですか?」
初めて好きになった人だ。そんな理由で納得ができない。
最初のコメントを投稿しよう!