団体競技の心構え

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「俺の弟、腹立つだろ? だからあんまり連れていきたくねーんだよ」  兄貴がゴチるが、裕太さんがいやいや、と否定してくれた。 「めっちゃ生意気で可愛いじゃん! 俺が抱いてやろうか?」 「無理ですね。俺が裕太さんを抱くならいいけど」 「俺は可愛い子をめっちゃくちゃ甘やかして抱きたいんだよね。ネコしたことないし」 「そうなんですか? 俺のためにバックバージン取っといてくれたんですね。ありがとうございます」 「いや、もう本当に久志は生意気で可愛いわ。今日は久志より気にいる子がいなかったら絶対に久志を抱く」 「無理無理!」  首と手を振る。話を切るために、兄貴が手を叩いた。三人で兄貴を見上げる。 「いいか、合コンは団体戦なんだよ。全員が一人で勝ちに行こうとすれば、自分たちで醜い争いをして潰し合い全員逃すぞ。協力しあおう」  兄貴が真剣な表情を見せるけど、俺は好みの美人は全員ゲットしたい。どんなスポーツだって俺が一番目立ちたい。ハットトリック決めたいし、さよならホームラン打ちたいし。  でも邪魔をされて全員逃すのは嫌だから、とりあえず話だけは聞いておこう。 「協力ってどうすんの?」 「まずは誰が好みかみんなで共有して、席を譲ったりかな。好みの子が被ったら僕に譲ってね」  秀明さんは真面目そうに見えるけど、兄貴の友達なんだなと実感した。当然の権利とでもいうような笑顔だ。 「被ったときのことは置いといて、おしぼりの向きで知らせろ。全員が席に着いたら、右から横、縦、斜め右上、斜め左上で。覚えたか?」 「ああ、大丈夫」  兄貴が確認するように全員に目を向ける。頷いて返事をした。 「それと久志は大学一年生って言っとけ。本当は大学四年生のみの合コンだったのに、高校生を連れていくのはちょっとな」  俺はどんなに頑張っても大学四年生には見えないだろうし、大学一年生ってことにしとくのが無難だろう。 「それはいいけど、大学のことを聞かれても俺は答えられないからボロが出ると思うよ」 「それは俺らがフォローするから」  任せろ、とでも言うように三人が頷きいい笑顔を見せる。 「あとは絶対に酒を飲むな。俺からも言うけど、勧められても飲むなよ」 「俺はダメだって分かってて飲ませようとするやつ無理だし、大丈夫だって」  少しでも大人っぽく見えるように服を選び、髪をセットした。  家を出る前に円陣を組んで手を伸ばして重ねていく。 「絶対に好みの子をゲットするぞ」 「「「おー!」」」  兄貴の掛け声と共に気合の入った全員が腕を下ろした。  ダイニングテーブルに『兄貴と夕飯食ってくる』と書き置きを残して家を出る。  結局好みの人が被ったときのことは話し合わないから、その時は醜い争いを繰り広げるしかないようだ。だって全員譲るようには思えない。もちろん俺も!
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