58人が本棚に入れています
本棚に追加
仲の良い先輩と後輩
眠ることができずに朝になった。支度をして家を出る。
学校には深月さんがいる。でも深月さんを見ることができない。
昼休みになっていつものように屋上前の踊り場に集まるけれど、会話に入る気にはなれなかった。
「久志はどうかしたのか?」
「昨日は彼氏ができたって浮かれてたじゃん」
昨日の深月さんの顔が浮かんだ。自責の念に駆られて胸が痛む。
「……振られた」
小さく漏らすと、騒がしかったのにしんと静まり返る。
昨日集まった百円を全員が財布にしまうところを見ても、突っ込む気にもなれない。
「今日はパァッと遊ぶか?」
「遊ばない」
思ったより冷たい声で、慌てて謝った。
「わるい、今日はそんな気分になれないけど、また今度誘ってよ」
一週間ほど経っても、深月さんを見ることができない。周りに気を遣われていると分かっているのに、今までと同じような振る舞いもできない。
スマホが鳴る。渚先輩からのメッセージだ。
『今日一緒に帰ろうよ』
『はい、終わったら連絡します』
授業を受けてHR後にスマホを見ると、渚先輩から『中庭のベンチに座ってる』とメッセージが届いていた。『すぐに行きます』と返して急いで向かった。
俺が着くと、優しい笑顔で手を振り迎えてくれる。
「久しぶりだね」
「渚先輩が昼休みに俺たちのところに来てくれないからですよ」
「後輩とばかり遊んでらんないの。僕だってクラスに友達がいるし」
渚先輩が隣のスペースを叩くからそこに腰を落とした。
「みんなが心配して僕のところに来たよ。久志がずっと落ち込んでるって」
「……そうですか。分かってはいるんですけど、自分ではどうしようもできなくて。ずっと引きずっています」
「話したくなければ話さなくてもいいし、話したいなら聞くよ。話す相手は僕じゃなくてもいいし。いつもいるみんなも久志の話をちゃんと聞いてくれるよ」
「ありがとうございます。相手に迷惑を掛けたくないので、みんなにも言わないでくれると助かります」
渚先輩は分かった、と頷いてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!