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「合コンで知り合ったって言ったじゃないですか。大学生って偽って兄貴に連れて行ってもらいました。大学生じゃなくて高校生って知られて振られました」
「自分で言ったの?」
「いえ、言うつもりだったのですが、それより先に知られてしまいました」
「制服着てる時にバッタリ会ったとか?」
首を振る。渚先輩に顔を寄せて声をひそめた。
「相手は教育実習生で知られてしまいました」
「そんな偶然あるの? 教育実習生って何人かいるでしょ。どんな人? 写真ある?」
渚先輩に猫カフェに行った時の写真を見せた。
「この人に高校生はダメって言われたの?」
「はい、来年教師になっているのに、高校生と付き合えないと言われました」
「ちゃんとした大人だね」
「そうですね。そのせいで傷つけてしまいました」
深月さんの泣き顔が頭から離れない。
「相手には立場があるだろうけど、僕は久志の味方だから。可愛い後輩だもん」
「ありがとうございます」
渚先輩が俺に身体を密着させ、耳元でささめく。
「だからさ、僕が慰めてあげる」
艶のある声に身体を跳ねさせ背を反らす。優しく微笑まれ、胸に顔を埋められた。
「あの、どうしたんですか?」
渚先輩にはかわされ続けてきたのに、急に誘われて戸惑ってしまう。
「年齢ってどうしようもないことで付き合うことができなくなったんでしょ? 僕が忘れさせてあげるよ」
……深月さんを忘れることなんてできるのだろうか。
渚先輩は俺の好みである年上美人だ。深月さんのことが好きだと気付く前はずっと抱きたいと思っていた。誘われるがままに流されてしまった方がいいのだろうか。
深月さんには振られているのだから、このまま思い続けても迷惑にしかならないだろうし。
渚先輩の背に腕を回す。首元に顔を埋めた。その場に押し倒そうとすると、コラ、と叱られる。
「ここは学校でお外だよ。僕の家、歩いて行けるからおいで」
身体を離すと渚先輩は立ち上がった。腕を引かれて俺も立ち上がる。腰に腕が回されたから肩を抱いた。目を合わせて足を進める。
校門を出ると渚先輩はスッと離れていった。
「歩きにくいね。ついてきてよ」
先を歩く渚先輩に困惑する。かわされ続けていた時のような距離感に。
少し歩くと冷静になってきた。深月さんに会う前の俺が渚先輩に誘われれば、速攻ひん剥いてルパンダイブしていただろう。
俺は渚先輩をそういう対象として見れなくなっている。渚先輩だけではない。深月さんじゃなきゃダメなんだ。
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