好きです

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好きです

 渚先輩と話してまだ深月さんを諦めないと決意してからは、学校で深月さんを見かければ目を見て挨拶したりできるようになった。ツレとも遊んで今まで通り楽しく過ごせた。  深月さんがいる三週間はあっという間に過ぎる。教育実習の終わった金曜の夜に、深月さんにメッセージを送ろうと書くことを考えていると、部屋の扉が開いて兄貴が入ってきた。 「なに?」 「久志は少し前までずっと落ち込んでたのって、深月さんと別れたからなんだろ?」 「そうだけど……」  俺は兄貴に別れたことを言ったか? 全く記憶にない。 「じゃあ今はもう吹っ切れたってことか?」 「別れたけど、好きでいるのを諦めないって意味では吹っ切れたってことなのかな」 「まだ好きってことでいいのか?」 「うん、そうだよ」  兄貴はスマホを取り出して操作し終わると俺をジッと見る。 「なに?」 「明日は出掛けるなよ」 「予定はないからいいけど、どっか連れてってくれるの?」 「明日を楽しみにしてろ」  兄貴は片方の口端を上げて不敵に笑い、部屋から出ていった。  どこに連れていってくれるんだろう。俺が落ち込んでいたから、遊びに連れていってくれるのだろうか。さすがにまた合コンとかはないだろう。俺が深月さんを好きなことを確認したのだから。  どこに行くのか想像していたらいつの間にか眠っていた。  部屋の扉が勢いよく開き、その音で飛び起きる。 「いつまで寝てんだよ。早く着替えて支度しろ」  兄貴が声を荒げるからスマホで時間を確認する。十一時だった。休みの日といえど寝過ぎた。 「ちょっと待ってて、すぐに着替えるから」 「早くしろよ」  兄貴が部屋を出ていき、階段を駆け降りる音が響いた。  着替えながら思い出す。昨日の夜、深月さんにメッセージを送っていない。兄貴が部屋に来て忘れていた。  着替え終わって深月さんに何と送ろうか考えていると、階段を駆け上る音がして諦めた。スマホをしまうと同時に扉が開く。俺の部屋の扉は頑丈だな。 「早くしろって言っただろうが!」 「わるい、今着替え終わったから」 「じゃあちょっと待ってろ」  急かすのに待っていろとはどういうことだろうか? 意味が分からないが、床にあぐらを描いた。  しばらくすると今度は落ち着いた足音が聞こえてきた。俺の部屋の前で止まり、扉がノックされる。  さっきまで勝手に開けていたのにどうしたのだろうか? 立ち上がって扉を開く。目の前にいたのは兄貴ではなく深月さんだった。 「うわー、とうとう幻覚が見えるようになったか……」  深刻な深月さん不足だ。一度扉を閉めて大きく息を吐き出す。  もう一度ノック音がした。 「あの、幻覚じゃないよ」  扉越しにそう声をかけられ、勢いよく扉を開いた。  不安そうに深月さんが眉尻を下げる。
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