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※久志と深月
四月最初の金曜日に深月さんからメッセージが届いた。
『明日は僕の家に来て』
住所と部屋番号も書かれていた。初めて会った合コンの後にマンションの前までは行った。二年も前のことだけど、場所は忘れていない。明日は深月さんの部屋に入れるのか、と頬は火照るし胸は期待で躍る。
浮かれていた前日とは裏腹に、深月さんの住むマンションの前に来ると緊張のしすぎで部屋番号が押せない。早く会いたいのに、久しぶりすぎてどうすればいいのか分からない。
毎日『好きです』とメッセージは送っていたけれど、実際に会うとなると緊張ですくんでしまう。
後ろに人が立ったから、意を決して震える指先で部屋番号を押す。すぐに扉が開いた。
『いらっしゃい。上がってきて』
深月さんの穏やかな声は変わらない。懐かしさで胸がいっぱいになる。はい、と返事をして開いた扉を抜けてエレベーターに乗る。すぐに深月さんの住む階に着いた。
俺がエレベーターを降りると同時に扉が開いた部屋があった。そちらに目を向けると深月さんが笑顔で出迎えてくれた。二年前と何も変わっていない。やっぱり好きだと思った。深月さんに会えて心の底から湧き上がる喜びを隠せない。
足を進める。
「深月さんが好きです」
思わず口にしていた。伝えずにはいられなかった。
深月さんは笑みを深めて微かに頷く。
「僕も久志くんが好きだよ」
「俺と付き合ってくれますか?」
「うん、ずっと待ってた」
腕を引かれて玄関に招き入れられる。扉が閉まると深月さんに抱きしめられた。甘いシャンプーの香りが鼻翼をくすぐる。すぐに離れて笑顔を向けられた。
「ずっと待ってた。ありがとう。僕のことずっと好きでいてくれて」
「待っていてくれて、ありがとうございます」
変わらないと思っていたけれど、目線は少し変化した。二年前はほとんど変わらない身長だったけれど、今は少し視線を下げなければ目が合わない。
「こんなところで引っ付いちゃってごめんね。上がって」
「はい、おじゃまします」
靴を脱ぐと指を繋がれて短い廊下を歩く。扉の向こうは広めの部屋に、白を基調とした家具が配置されていて、落ち着いた雰囲気が深月さんっぽいなと思った。
深月さんがベッドに座り、俺は深月さんの前で立ち尽くす。
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