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「座らないの?」
深月さんがベッドをポンポンとするから目を見開いて狼狽えた。
「いえ、それはマズイと思います」
熱を持った顔を背ける。繋いでいる指をキュッと握られ、ねぇ座って、と甘い声で誘われた。おずおずと少しの距離を空けて深月さんの隣に腰掛けるが、すぐに詰められて体が密着する。
「あの、深月さん。……近いです」
震える声でそう絞り出した。
今日は告白して付き合ってもらうことが目的だった。俺は鈍い方ではないと思う。だから誘われていることは分かっているけれど、急展開に戸惑ってしまう。
「久志くんは誰とも付き合ったことないって言ってたでしょ」
「はい、深月さんが初めてですね」
「だから初めて会った時からずっと我慢してたんだよね。久志くんに合わせてゆっくり進めていこうって」
目を瞬かせる。付き合ったことがないと言ったから、深月さんは俺を童貞だと勘違いしている? 訂正しようと口を開くより早く、頬に柔らかなものが触れる。チュッと可愛らしい音を奏でて離れていき、キスをされたのだと気付いた。
驚いて首を横に向ける。すごく近くに深月さんの顔があり、目は血色のいい唇に釘付けになった。
「もう我慢したくない。我慢しなくてもいい?」
そこから甘い蜜のような声で紡がれた。誘われるままに深月さんを押し倒す。
「俺も我慢していました」
深月さんに触れたかった。
でもいざその時になると固まってしまう。深月さんを見下ろしたまま動かない俺のうなじで、深月さんの指が組まれた。自分の心音だけがやけに大きく聞こえる。
「久志くんも我慢してたの? 嬉しいな」
引き寄せられて唇が触れる。
飛び退いて手で口を覆った。ジワジワと顔に熱が集まり、燃えるように熱い。
深月さんが身体を起こす。口を押さえている手を握られ、外された。深月さんが上目遣いで艶っぽく微笑む。
「嫌ってわけじゃなさそうだね?」
「もちろんです! あの、……えっと、すごく柔らかかったです」
慌てて肯定したが、恥ずかしさから声は尻すぼみになって伏目になる。
なんだこの感想は! なんだこの反応は!
深月さんと出会ってからは誰かと関係を持つことはしていないが、それ以前の経験値がゼロどころかマイナスになっている。深月さんの前ではどうしたらいいのか分からない。
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