※久志と深月

2/8
前へ
/36ページ
次へ
「座らないの?」  深月さんがベッドをポンポンとするから目を見開いて狼狽えた。 「いえ、それはマズイと思います」  熱を持った顔を背ける。繋いでいる指をキュッと握られ、ねぇ座って、と甘い声で誘われた。おずおずと少しの距離を空けて深月さんの隣に腰掛けるが、すぐに詰められて体が密着する。 「あの、深月さん。……近いです」  震える声でそう絞り出した。  今日は告白して付き合ってもらうことが目的だった。俺は鈍い方ではないと思う。だから誘われていることは分かっているけれど、急展開に戸惑ってしまう。 「久志くんは誰とも付き合ったことないって言ってたでしょ」 「はい、深月さんが初めてですね」 「だから初めて会った時からずっと我慢してたんだよね。久志くんに合わせてゆっくり進めていこうって」  目を瞬かせる。付き合ったことがないと言ったから、深月さんは俺を童貞だと勘違いしている? 訂正しようと口を開くより早く、頬に柔らかなものが触れる。チュッと可愛らしい音を奏でて離れていき、キスをされたのだと気付いた。  驚いて首を横に向ける。すごく近くに深月さんの顔があり、目は血色のいい唇に釘付けになった。 「もう我慢したくない。我慢しなくてもいい?」  そこから甘い蜜のような声で紡がれた。誘われるままに深月さんを押し倒す。 「俺も我慢していました」  深月さんに触れたかった。  でもいざその時になると固まってしまう。深月さんを見下ろしたまま動かない俺のうなじで、深月さんの指が組まれた。自分の心音だけがやけに大きく聞こえる。 「久志くんも我慢してたの? 嬉しいな」  引き寄せられて唇が触れる。  飛び退いて手で口を覆った。ジワジワと顔に熱が集まり、燃えるように熱い。  深月さんが身体を起こす。口を押さえている手を握られ、外された。深月さんが上目遣いで艶っぽく微笑む。 「嫌ってわけじゃなさそうだね?」 「もちろんです! あの、……えっと、すごく柔らかかったです」  慌てて肯定したが、恥ずかしさから声は尻すぼみになって伏目になる。  なんだこの感想は! なんだこの反応は!  深月さんと出会ってからは誰かと関係を持つことはしていないが、それ以前の経験値がゼロどころかマイナスになっている。深月さんの前ではどうしたらいいのか分からない。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加