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二次会もなく、その場でお開きになった。全員好みの人と上手くいったから、早く二人きりになりたいのだろう。身体を寄せ合って夜の街に消えていく。俺と深月さんだけが残った。
「深月さんは電車ですか?」
「ううん、歩きだよ」
「送りますよ。心配なので」
「でも、帰りが遅くなっちゃうよ」
「歩いて行ける距離ならそんなに時間は変わりませんよ。深月さんが嫌でなければ送らせてください」
「ありがとう。それじゃあお願いしようかな」
「足はまだふらつきますか?」
「大丈夫だよ」
そう言って数歩進むと深月さんがよろける。慌てて腕を伸ばした。伸ばした腕に深月さんが掴まって転倒を避ける。ホッと息を吐いたのが分かった。
「びっくりした」
「俺もです。危ないからいくらでも寄りかかってくださいね」
「うん、ありがとう」
深月さんが俺の腕にしがみつくようにギュッと腕を絡めた。
「久志くん、僕を送ってね」
「はい、行きましょう」
可愛い。ものすごく可愛い。酔ってなかったら送り狼になっていた。
深月さんがゆっくりと歩き始める。俺も同じ歩速で進む。
昼間は過ごしやすい気候だが、夜は少し肌寒い。風が吹き、深月さんが身体を縮こまらせて身震いした。
「寒いですか? 俺の上着でよければどうぞ」
ジャケットを脱いで深月さんの肩にかける。
「久志くんは寒くないの?」
「大丈夫です。寒くありませんよ」
少し冷えるが、カッコつけさせて欲しい。
「ありがとう」
深月さんは薄めのロングカーディガンの上からジャケットを羽織る。変な組み合わせだが、深月さんが顔を綻ばせた。
「久志くんは紳士だね」
「そうですか? 初めて言われました」
とりあえずヤれればいいと思っている。相手も自分も楽しく気持ちよくがモットーだから、酷いことはしていないはずだけど、紳士なんて言葉とは無縁だと思っていた。深月さんのことだって、酔っていなかったら手を出していた。
「だってお手洗いに行った時だって、外に出て待っていてくれたでしょ。今だって僕に上着をかけてくれて。すごく嬉しかったよ」
「深月さんがすごく美人だからいいかっこうしたかったんですよね。少しでも良く思って欲しいなって」
ほんのり赤かった深月さんの顔が更に染まる。やっぱり反応が可愛いんだよな。
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