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「あの、久志くんのこといいなって思ってるよ」
「本当ですか?」
「うん、また会ってくれる?」
「もちろんです」
ゆっくり二十分ほど歩くと、ここだよ、と深月さんがマンションを指した。ワンルームマンションみたいだから、一人暮らしらしい。
「もう少し一緒にいたいけど、帰らなきゃだもんね。連絡先教えてくれる?」
QRコードを読み込んで、メッセージアプリに『白石深月』が友達登録された。名前も綺麗だよな。
「ねぇ、明日は何時に学校から帰るの?」
「十六時過ぎには帰れますね」
「バイトとか遊びとか予定はある?」
「バイトはしていませんし、予定はありません」
「そっか、まだ大学生になったばかりだもんね。探している途中かな」
「そうですね」
忘れかけていた大学生という設定を思い出した。高校はバイトが禁止だからしていないが、大学生ならしている人の方が多いよな。まだ四月だから変に思われなかったけど、発言には気をつけなければ。
「予定がないなら、明日は僕とご飯を食べに行かない? できれば二人っきりで」
不安そうにこちらをうかがう表情に庇護欲を掻き立てられる。
「行きたいです。誘っていただけて嬉しいです」
「よかった。食べたいものってある?」
「何でも食べるけど、好物はカレーですね」
「僕もカレー好きだよ。美味しいお店を何軒かピックアップして送るから、行きたいお店を連絡して」
「はい、分かりました」
深月さんがジャケットを脱いで俺の後ろに立って着せてくれた。ほのかに深月さんの香りが移っていて鼻腔をくすぐる。
「送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
「はい、冷えるので深月さんも早く家で暖まってくださいね」
手を振って駅に向かって歩き出す。少し進んで振り返ると、深月さんは同じ場所に立っていた。俺に向かってまた手を振る。俺も振り返した。
角を曲がる直前で振り返るとまだいる。手を振り合って角を曲がった。少し待って顔を覗かせると深月さんがマンションに入っていく後ろ姿が見えた。
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