気付いてないのは自分だけ

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気付いてないのは自分だけ

 昼休みは弁当を持って屋上前の踊り場に集まる。話題は今日の遊び場所。  俺は深月さんから届いたメッセージを見ながら卵焼きを口に運ぶ。  グリーンカレー、キーマカレー、バターチキンカレーとおしゃれなカレーの画像が並ぶけど、俺が好きなのは田舎風のどろっとしたカレー。野菜も大きめだと嬉しい。一番下に見つけて『最後のカレーが食べたいです』と返信した。 「久志はさっきっからスマホを見ながらなにニヤニヤしてんだよ」  小突かれて、わるい、と言ってスマホをポケットにしまう。 「今日は久志の家でいいかって話してたんだけど」 「わるい、無理だわ。俺、今日は予定がある」 「マジかよ、昨日も遊んでくれなかったじゃん!」  ひっつかれて身体を押し除ける。食べにくい。  うるさい周りを軽くあしらい、階段を上る音が聞こえたからそちらに目を向けた。 「ここ、治安悪いね。みんなが怖がっちゃうよ」  三年生の渚先輩は怖いと言いながらも穏やかな表情を見せる。  渚先輩は俺好みの美人だ。優しくて甘えさせてくれそうな雰囲気なのに、近寄るとかわされる。そんなだから追いたくなるし、でも誰のものにもならない高嶺の花。 「渚先輩、聞いてくださいよ。久志が俺らと遊んでくれないんですよ」  渚先輩が俺の隣に腰を下ろす。吸い込まれそうなほど綺麗な目に思わず生唾を飲み込んだ。 「久志は予定があるの?」 「そうですね。昨日合コンした人と夕飯食べに行きます」  合コンと聞いて渚先輩が顔を顰める。 「久志はいい子なんだから、男遊びをやめたらいいのに」 「うーん、今回はいつもと違うんですよね。めちゃくちゃヤりたいですよ。でも、それよりももっと相手のことを知りたいというか。何なんですかね?」  全員が目を丸くする。ヒソヒソと話し始めたから何を言っているかは聞き取れない。 「久志はその人のことどう思ってるの?」 「めっちゃ好みの美人」 「僕のことは?」 「渚先輩もめっちゃ好みの美人」 「僕とその人とでは思いが違うんじゃないの?」  深月さんと渚先輩では思いが違う? 「よく分からないですが、どちらともヤりたいですね!」  そう言えば、クズだとか、やっぱり久志は久志だったとか、滅べとか、散々な罵りを受ける。さっきまで俺が遊んでくれないと文句言っていた俺のこと大好きな奴らばかりのはずなのに。  渚先輩は大きなため息を吐いた。 「今日その人と会ったら、僕とその人への思いの違いに気付けるといいね」 「そうですか? 何か分かったらお知らせしますね」 「そうだね。久志の恋バナ聞けるといいな」 「恋バナ? 過去のことならいくらでも話せますよ」 「それは恋バナじゃなくて猥談でしょ。そんなの聞きたくないよ」 「恋バナってエロい話じゃないんですか?」  全員が白い目を向けてくる。声を揃えて、バカ、と吐き捨てた。
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