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放課後のチャイムが鳴り、荷物を鞄に纏めた私はすぐに生徒会室へ向かう。まずは換気のために窓を開けて。それから香椎くんがいるべき環境が少しでも心地いいものになるように、テーブルの掃除を始めた。
それは、いつもの私のルーティンだ。
報われなくても良い。どちらかと言えば憧憬にも似た感情を行動に現すことだけが、満ち足りる方法だから。
少しでも彼が幸せであって欲しい、ファン心理によるものだ。
「菫さん。今日も一番のりだね」
そんな風に勤しんでいると、不意に背中に声をかけられた。掃除に集中していたせいか、彼が部屋に入って来ることに気がつかなかった。ファン失格である。
彼に紡がれる自分の名前の響きが好きだ、と常々思う。自分に記された音が、より一層綺麗なものに聴こえるのだ。
「香椎くんも、いつも早いね」
「うん。早くここに来れば、菫さんに会えるかなって」
「またそんなこと言って…。あ、そうだ、喉乾いていない?昨日誰かが紅茶を持ってきてくれたみたいなの」
香椎くんは、天然で人との距離が近い。現に私に言っている言葉も、無意識なんだろう。
「俺が淹れるよ。菫さんは少し待ってて」
「でも、」
「俺が菫さんにしたいの。皆には内緒ね」
手入れが行き届いている人差し指を口元に当て、綺麗にウィンクをする香椎くん。本当に、この人は美しい人だと思う。
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