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倒木で囲まれた、誰にも見つからない秘密の空間。訪れるのは5年ぶりだ。
「ここ、だいぶちっちゃくなった感じがするなぁ」
「ぼくたちが大きくなっただけだって」
ぼくが布を温める魔法を唱えると、布がほんのりと温まった。エリーはそれを触って納得した顔。
「あったかいね、これなら孵化させられそう♪」
「でも、効果の持続は丸一日だよ」
「じゃあ、一日一回くればいいじゃない」
「ちょっと待て。ぼくも面倒をみるのか?」
「あたりまえじゃないの。あたしだってちゃんと毎日みにくるから」
その返事に心臓がはねた。
「わかったよ! やればいいんだろ?」
「よっ、さすがエリート魔法使い!」
嫌がるふりをしたけれど、内心わくわくしてしまう。卵は孵るかわからないけれど、エリーと同じ時間を過ごせるなんて願ってもない幸運だ。
以来、ぼくらは秘密基地で卵の世話をするようになった。エリーは「おかえり、おかえり」と語りかけ、卵をなでながら孵るのを心待ちにしていた。
それから二週間ほど経ったある日。
学校から帰るやいなや、エリーが大慌て駆け寄ってきた。誰もいないのを確かめて早口で言う。
「卵が割れたの!」
「えっ! 落としちゃったのか!?」
「ちがうって。孵化してるっぽいの!」
「まじか!?」
「うん、まじ!」
急いで秘密基地に向かうと、卵は布の中で小刻みに揺れていた。殻には割れ目が入っており、見ていると割れ目は徐々に延びていた。
突然、目の前でぱっくりと割れ、中から深緑色の翼を持つ生き物が転がり落ちた。
もそもそと起き上がり、体を震わせ二枚の翼を広げた。少し尖った口、丸い漆黒の瞳、全身を覆うつややかな鱗。紛れもなく龍そのものだった。
「龍が、孵ったぁぁぁ!」
エリーはよつん這いになり、目を丸くしてその姿を覗き込む。孵化させようとした本人がぼくよりも驚いていた。
龍はぼくとエリーの存在に気づいたようで、無垢な瞳で顔を見上げて、大きくひと鳴きした。
「ピギャー!」
「うわぁ、ほんとうに龍だー! 生きてるー!」
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