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エリーは感動で打ち震えていた。龍は人間を警戒すると思ったけれど、よちよちと歩いてエリーのふとももに顔をこすりつけた。エリーは嬉しそうな顔で龍の子の背中を撫でている。
「名前をつけてあげないとね」
きらきらとした瞳でぼくを見るエリー。ぼくはその可愛らしい表情に顔がほてる。
「レイヴン……」
「え?」
「神話に出てくる鳥の名前さ。かっこいいだろ」
「うん! じゃあ、それにする!」
エリーがぼくの思いつきに賛成したので、ぼくは心の中で拳を握りしめた。
だって、ぼくが名付けの親になれば、エリーはレイヴンを見てぼくのことを思い出すだろうから。
ぼくとエリーが違う道を歩み、離れ離れになったとしても。
★
レイヴンはすくすくと育っていた。
新鮮な魚が口に合うようで、だからぼくは市場に買い出しに行ったり、釣りで魚を入手したりと、ひたすら走り回る役目となった。
エリーはぼくから魚を受け取りレイヴンに餌付けをする。餌付けをするときのレイヴンは従順でかわいい。
「もっと食べる? うんうん、食べるよね~♪」
餌付けを独り占めするなんてずるいと思ったけれど、彼女の無垢な笑顔を見ているとなにも言えなくなってしまう。
それからエリーは、レイヴンに本の読み聞かせをした。レイヴンはエリーの膝の間から楽しそうに本を眺め、エリーの言葉に聴き入っている。
「でもそれ、絶対意味わかってないだろ」
「いーの、言葉ってそうしているうちに自然と覚えるものよ。タロだってそうだったでしょ?」
「それ、人間の場合だろ!」
「このこ、自分は人間だと思ってるもん。ねー!」
「ピギャ!」
レイヴンはエリーに同意するように顔を見上げて鳴いた。まったく、エリーは母性本能を爆発させすぎだ。
ぼくはそう思いながら、隣でちらちらとエリーの顔を眺めつつ朗読を聴いていた。
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