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「でもさ、なんで人間って龍を嫌っているんだろうね」
ある日、エリーはレイヴンを抱きかかえたままそう尋ねた。
「そりゃあ、人間に危害を加えるからじゃない?」
けれど、エリーは「そうかなぁ」と腑に落ちない顔をする。
魔法学校の講義によると、50年ほど前に街が龍に襲われ、大規模な討伐があった。以来、龍は人間の前にめったに姿を現さなくなった。ぼくはそのことを説明した。
「だってさ、それって人間の立場の話じゃない? それに、昔は龍と人間が共存していたって聞いたことがあるよ?」
自然との共生を学ぶエリーにとっては、龍も自然の一部なのだろう。ぼくと、いや、一般人と違って龍が敵だという認識が薄い。そうでなければ、卵を持ってくるなんて危険なことをするはずがない。
突然、エリーがなにかを思い出し、すっくと立ちあがった。レイヴンが膝から飛び上がってよける。
「そうだ、今日はサダラばあちゃんのところに行かなくちゃ!」
サダラばあちゃんは身寄りのない盲目の老人で、自然学校の生徒に面倒を見てもらっている。
レイヴンはエリーを見上げて「もう行っちゃうの?」とばかりに悲しそうな表情をした。エリーは思いとどまり、しばらく考えた後、ぼくにこう提案した。
「ねえ、レイヴンも連れて行こうよ」
「誰かに見つかったらどうするんだよ」
「だいじょうぶだって。誰もこないところだから」
エリーが自信満々だったので、ぼくはエリーの意見を尊重した。
サダラばあちゃんの住む小屋は街のはずれの荒地に立っている。エリーはレイヴンを抱きかかえ、茂みに身を隠しながら小屋へと向かう。
初めて森から出たレイヴンは大喜びで飛び回ろうとしたので、エリーはレイヴンを抑えるのに必死だった。
「サダラばあちゃん、こんにちは」
「おや、その声はエリーだね。いつもありがとう」
サダラばあちゃんは揺り椅子に腰掛けたまま、こちらに顔を向けた。垂れたまぶたが目を覆っている。
「今日はパンと果物と、それに干し肉を持ってきたよ」
すると、サダラばあちゃんはすんすんと鼻を動かし、はっとなった。
「この匂いは――龍がいるんだね。それも子供じゃろ」
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