レイヴン

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★ エリーはすっかりわが子の成長を楽しむ母親の顔になっていた。ことあるごとに大はしゃぎで感動をぼくにぶつけてくる。 「聞いて! レイヴンがはじめて飛んだのよ!」 「まじか!」 「うん、おおまじ!」 秘密基地に行くと、レイヴンの姿はそこになかった。 「どこに行ったんだろう?」 誰かに見つかったらまずいと思ったけれど、大声で名前を呼ぶわけにもいかない。目を皿のようにして森の木々の中を探る。 すると突然、木々のてっぺんから風を切る音が聞こえてきた。見上げるとレイヴンが羽ばたきながらエリーに飛びついてきた。 「きゃあ、ちょっとレイヴン、やめなさい!」 襲われたのかと思うほどの勢いだったが、爪を引っ込めていたようで怪我をすることはなかった。 レイヴンはエリーを驚かそうとしていたらしく、姿を隠して待っていたらしい。してやったりの顔で、頭の上をぐるぐると飛び回っている。 龍は賢い生き物だけに、悪知恵も働くらしい。 「レイヴン、『ママ』って言ってみて?」 「ギャッ、ギャッ!」 「はい、よくできました♪」 「できてないってば!」 「あー、さては悔しいんだな」 「そんなことないって。じゃあ、『パパ』って言ってみて」 するとレイヴンは「ブワッ! ブワッ!」と言い――口から炎を吐き出した! 「うわっ、熱っ!」 「あはは立派! それでこそ龍の子供だ」 驚いて身を翻したけれど、前髪がちりちりと焼けてしまった。エリーはお腹を抱えて大笑いしている。炎を吐けることをぼくには内緒にしていたらしい。 「イェーイ!」 「ガオッ!」 ふたりはぼくを騙すのに成功したのを喜び、手と翼でハイタッチしていた。 「まったくもう、どっちも悪戯しすぎだよ」 レイヴンはほんの数か月ですっかり大きくなり、抱きかかえられない重さになった。身体も知能も順調に成長していた。 けれど、サダラばあちゃんの言葉を思い出し、この楽しい時間は永遠ではないのだと自分に言い聞かせる。いずれ皆、違う未来に向かっていかなくてはならないのだから。 漠然とした諦念を抱きながら、ぼくはエリーとレイヴンがじゃれあう様子をぼんやりと眺めていた。
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