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エリーはすっかりわが子の成長を楽しむ母親の顔になっていた。ことあるごとに大はしゃぎで感動をぼくにぶつけてくる。
「聞いて! レイヴンがはじめて飛んだのよ!」
「まじか!」
「うん、おおまじ!」
秘密基地に行くと、レイヴンの姿はそこになかった。
「どこに行ったんだろう?」
誰かに見つかったらまずいと思ったけれど、大声で名前を呼ぶわけにもいかない。目を皿のようにして森の木々の中を探る。
すると突然、木々のてっぺんから風を切る音が聞こえてきた。見上げるとレイヴンが羽ばたきながらエリーに飛びついてきた。
「きゃあ、ちょっとレイヴン、やめなさい!」
襲われたのかと思うほどの勢いだったが、爪を引っ込めていたようで怪我をすることはなかった。
レイヴンはエリーを驚かそうとしていたらしく、姿を隠して待っていたらしい。してやったりの顔で、頭の上をぐるぐると飛び回っている。
龍は賢い生き物だけに、悪知恵も働くらしい。
「レイヴン、『ママ』って言ってみて?」
「ギャッ、ギャッ!」
「はい、よくできました♪」
「できてないってば!」
「あー、さては悔しいんだな」
「そんなことないって。じゃあ、『パパ』って言ってみて」
するとレイヴンは「ブワッ! ブワッ!」と言い――口から炎を吐き出した!
「うわっ、熱っ!」
「あはは立派! それでこそ龍の子供だ」
驚いて身を翻したけれど、前髪がちりちりと焼けてしまった。エリーはお腹を抱えて大笑いしている。炎を吐けることをぼくには内緒にしていたらしい。
「イェーイ!」
「ガオッ!」
ふたりはぼくを騙すのに成功したのを喜び、手と翼でハイタッチしていた。
「まったくもう、どっちも悪戯しすぎだよ」
レイヴンはほんの数か月ですっかり大きくなり、抱きかかえられない重さになった。身体も知能も順調に成長していた。
けれど、サダラばあちゃんの言葉を思い出し、この楽しい時間は永遠ではないのだと自分に言い聞かせる。いずれ皆、違う未来に向かっていかなくてはならないのだから。
漠然とした諦念を抱きながら、ぼくはエリーとレイヴンがじゃれあう様子をぼんやりと眺めていた。
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