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「討伐隊」の兵士たちがぼくの家を訪れたのは、その翌日のことだった。
家の外が騒がしくて目を覚ました。屋根から庭を見下ろすと、母さんが男たちと押し問答をしていた。龍の匂いを嗅ぎ分ける魔獣を連れていた。背筋に冷たいものが走る。
しばらくして母さんは早足で家に戻った。すぐに階段を上がる音がして、ぼくの部屋の扉が開く。
母さんは怒りとも悲しみとも取れる負の感情を顔に浮かべていた。
「最近、食糧の魚がなくなっているから、おかしいと思ったわ。エリーも知っているのよね?」
討伐隊は龍の匂いをたどり、この家に行き着いたのだと悟った。不用心だったことを後悔した。
「もしもあんたが龍の子供を隠しているなら、それをあの人たちに差し出しなさい!」
母さんは強い口調でそう言った。兵士たちによほど迫られたのだろう。
討伐隊はレイヴンを使って親の龍をおびき寄せ、仕留めるつもりだ。戻ってきた龍は子供を探しているに違いないのだから。めらめらと怒りが沸いてくる。
「いやだ! レイヴンをあんなやつらの手に渡せるか!」
ぼくは母さんの手を払いのけ、部屋から飛び出した。男たちの視線をかわしつつ裏口から出、エリーの家へと駆けてゆく。
すると、慌てた様子でこちらに向かってくるエリーの姿が見えた。彼女の切実な表情は、ただごとではないことを物語っていた。
「タロ、うちに討伐隊が来た!」
「ぼくの家もだ! レイヴンをさらうつもりだ!」
「隠していたのに気づかれたのね! はやく連れて逃げないと!」
エリーはぼくの手を掴んで秘密基地へと向かう。
「でも、逃げるってどこへ!?」
「どこでもいいからっ! 誰もいないところへ!」
「そんな無茶なっ!」
まるでわが子を守ろうとする母のように無我夢中になっている。
秘密基地に着くやいなや、レイヴンが勢いよくエリーに飛びついてきた。
「レイヴン、ここを離れるよ! 違う森へ逃げよう」
「ピギャ?」
エリーはレイヴンについてくるようにとサインを出しながら森を飛び出した。
けれど、草原に出たとたん、討伐隊の兵士たちが茂みの中から姿を現した。皆、銃を手にしている。
「龍は始末しなければ大きな被害を生む。そいつを渡しなさい」
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