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ぼくはすぐさま、エリーとレイヴンの前に立ちはだかった。
「なにが被害だ! 人間が龍を襲うから、龍が怒ったんだろ! だいたい討伐だって、住民の安全よりも鱗が目的なんだろ!?」
一瞬たじろいた彼らの様子は、ぼくの主張が的を射ていることを物語っていた。
けれど突然、背中に強い衝撃が走る。ぼくは地面に倒され、手足を押さえ込まれた。
必死に顔を上げると、討伐隊の兵士に囲まれて暴れるレイヴンと、取り押さえられて口を塞がれたエリーの姿が見えた。
「エリー、レイヴン!」
「むぐっ……!」
「ギャッ、グギャア!」
どんなにあがいても、ぼくらはあまりにも無力だった。討伐隊は勝ち誇った顔でレイヴンの躰に鎖を巻き付けようとしている。
「こいつを使って、仕留め損なった龍をおびき出すぞ!」
「了解です!」
すると、あたりが大きな影で覆われた。驚いて空を見上げると、巨大な龍が頭上を飛翔していた。赤く光る眼はこちらに狙いを定めている。
レイヴンが鳴き叫ぶと、その声に反応した龍は高度を落とし、一直線でこちらに向かってくる。
「さっそくお出ましだ! 生死は問わん、今度は絶対に仕留めろ!」
彼らはぼくとエリーを放り出して銃を構え、銃口を龍へと向けた。
魔法使いは、魔法を人に向けてはならないという掟がある。過去の魔法戦争での悲劇から、ぼくはそう教わってきた。
けれどもう、なりふり構っていられなかった。
今、ぼくは掟を破る。龍を守るために。
魔法を詠唱すると両手に光がほとばしる。指先で彼らの銃を狙い、魔法を発動させた。
――飛び散る閃光の魔法ォォォ!
激しい雷鳴を響かせて討伐隊の銃が吹き飛んでいく。兵士たちに動揺が広がる。
その隙を突いて、エリーは武器を失った兵士に突っ込んでゆく。
「えええいっ!」
レイヴンを縛る兵士に体当たりをすると、兵士はよろけて鎖を自分の足に絡ませて転倒した。
「エリー、よくやった!」
「タロだって!」
龍は怒りの咆哮をあげながら急激に高度を下げてくる。丸腰の討伐隊は慌ててその場から逃げ出していった。
ぼくとエリーはふたりでレイヴンを抱き上げて叫ぶ。
「「龍よ、子供をお返しします。どうか、怒りをおさめてください!」」
けれど龍はさらに勢いを増し、ぼくとエリーめがけて急降下してくる。両脚に鋭い爪をむき出しにして。
逃げる余裕などなかった。
もう駄目か――。
そう思った瞬間、龍の翼が地上に到達し、激しい突風が巻き起こった。
その勢いで、ぼくとエリーは空中に投げ飛ばされた。
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