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レイヴン
街では討伐隊が龍を追い払ったという噂で持ちきりだった。
郊外の崖の上に巣穴を作り、いつ人が襲われるかわからない状況だった。だから国は討伐隊を向かわせたという。仕留めることはできなかったけれど、これでひと安心だと胸を撫でおろした。
なぜなら崖下の森は、幼馴染のエリーがよく山菜取りをしている場所だから。
ぼくはずっとエリーのことが気になっていた。けれど、ぼくは魔法使いの家業を継ぐために魔法高等学校へ、エリーは自然と共生する方法を学ぶ自然学校へと進学をし、それ以来、疎遠な関係となっていた。
けれどある日、エリーが慌てた様子でぼくの家を訪れた。突然の来訪に胸の鼓動をなだめながら応対する。
「タロ、これを見てよ!」
胸には大きななにかを抱えているけれど、布で包まれて中身はわからない。ちらとめくってぼくはぎょっとした。
そこには斑色の大きな卵が入っていたのだ。
「崖の下に落ちていたんだよ」
「ちょっと待て、その崖って……龍がいたところか!?」
「うん」
「ていうことはまさか――龍の卵!?」
「っぽい!」
聞くと山菜を採っていたときに気づいたとのこと。
「あんな崖の上から落ちても割れないんだから、ぜったい龍だと思うんだ!」
たしかに、龍が崖に巣をこしらえたのは産卵のためかもしれない。討伐隊によって巣が壊され、卵が落ちたのだろう。
「まさか孵化させる気じゃないだろうな?」
「そのまさかじゃ駄目? 親だと刷り込ませれば慣れてくれるって!」
思い立ったら止まらない、それがエリーの困ったところだ。
「誰かに見つかったら大事だぞ」
「だから、タロにしか教えていないんじゃん!」
エリーは思いのほか、ぼくを信頼してくれていた。ぼくにとってはふたりの秘密ができたようでこそばゆい。
「でもどこに隠すんだよ。親にも知られちゃいけないだろ?」
「秘密基地があるじゃない、ひさしぶりに行ってみようよ!」
そういわれて思いだした。幼い頃、ふたりで森の中に秘密基地をこしらえていたことを。
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