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レイの言い分は分かる。つまり今すぐ夜逃げしろと言っているのだ。だけど年齢的に考えて、こんな女の子に病気を抱えた母親を連れて遠い場所まで行けだなんて、あまりにも無謀じゃないか。
「大丈夫、出来るよ」
「でも、」
「失う前に守らないと絶対に後悔する」
「……」
「私が言っていることがどれほど過酷であれ、後悔しないために、絶対にそうするべきだよ」
レイの瞳が真っ直ぐに女の子を捉える。正直無茶苦茶だと思う一方で、なぜだかその言葉はズシンと私の心に響いた。
「お母さんが動けないのなら抱えて歩けばいい。そうすればいつかきっと、お母さんの笑顔が見れる日がくるから」
ぽんっと、レイの華奢な手が女の子の頭を撫でる。相変わらず表情は変わらないけれど、その眼差しは優しかった。
するとずっと口を真一文字に結んでいた女の子は、レイを見上げてこくりと頷く。
目には涙が溜まっているものの、それを振り切るようにぺこりと頭を下げると、レイからもらったカバンを大切そうに抱きしめながら暗い道を走って行った。
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