クールな彼女

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それから再び息が詰まるような沈黙が続く中、その視線を先にすっと動かしたのはレイだった。 その双眸は、まるでそこに何かを見つけたかのように、ある一点を捉えて止まる。不思議に思いながら、私もその方向を見た。 するとそこに広がっていたのは、思わず小さく息を飲み、瞠目するような光景だった。 「お願いしますっ、もう少しだけ…もう少しだけ待ってください!」 そう懇願して頭を下げているのは、十歳くらいの幼い女の子。そして彼女の前にはスーツ姿の男が三人立っていて、そのうちの一人が女の子の腕を掴んで無理やり引っ張っている。 「お願いします、今あたしがいなくなっちゃったらママが…!」 「どうせお前が戻ったところでママは治らねぇだろ。んなことより、こっちは借した金をとっとと返して欲しいわけだよ。お前の身体があればそこそこ金になるんだ。それでも足りないくらいだけどな」 「いやだっ、やだ!ママっ!」 「あーうぜー。暴れんじゃねぇよ」 「…っ、」 バキッと頭を殴られた女の子は、そこを押さえながらもまだその場に踏みとどまろうとしている。そんな彼女に同情の余地もなく、男は髪を鷲掴んで引きずるように歩きだした。 そういえば、事前に調べた情報に書いてあった。島の中でも治安が悪い場所があり、なんでもヤクザが牛耳っているのだとか。賭場やネオン街があり、身寄りのない子供や住む場所のない人が屯しているらしい。 「ヤエ、行くよ」 「あ、はい」 不意に名前を呼ばれて、顔を上げた時にはもう、レイは背中を向けて歩きだしている。そんなことは分かり切っていたけれど、少しも女の子を気にかけている様子はなかった。 無論、私もついて行かなければならない。私がこんな風にレイの後ろ姿と女の子の様子を交互に見ていたって、なんの意味もないことは百も承知だった。 だけど、私はどうしても―― 「ヤエ」 どうしても、泣きながら引きずられている女の子に背を向けることが出来なくて。 もう一度私を呼ぶレイの声を無視した私は、女の子の元に足を踏み出そうとした。
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