二人の距離

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肌を刺すような寒風に代わって、気持ちのいい柔らかい風が肌を撫でる。 長い冬を終えて、春がやってきた。 「今日って、バイクを運転するのはお母さん?」 大家族用の何段重ねにもなっているお弁当箱におかずを詰めている時、隣に立った煌生が尋ねてきた。 「ん?バイクなら今日はお父さんが、」 「えっ!?ほんと!?じゃあ俺後ろに乗せてもらおうっと!」 「……ちょいちょいちょい」 思わず引き止めた私に、「え?」と首を傾げながら振り返った煌生に、「えーっと」と続ける。 「今のはどういう意味かな?」 「どういう意味って、そのまんまだけど」 「はい?」 「だってお母さんの運転怖いんだもん。初めはゆっくりなのに気付いたらスピードヤバイし車スレスレのとこ走るし。それに比べたらお父さんは安全運転だから」 「……」 黙り込んだ私の後ろで、ふはっ、と笑う声が聞こえて、振り返ると、そこには楽しげに笑う侑生が立っていた。 「お母さんの運転怖いよな」 「はぁ?超安全運転ですけど?」 「仕方ないんだ煌生。お母さんはスピード狂だから」 「それなら侑生だって」 「俺は制限速度は絶対に守るタイプなんで」 「……」 もし煌生がいなかったら"どの口が言ってるんだ"と罵ってやるところだ。 前に私が後ろに乗った時、平然とかっ飛ばしやがったのはどこのどいつだ。……かなり楽しかったからいいんだけど。
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