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ちょっとだけで良かった。ほんの少し、外の空気に触れたかった。
だってきっとあと少しすれば、パーティー会場を後にするだろう。ようやく息の詰まるこの場所から解放される。
解放されるけど、またあの毎日に戻るだけだ。
あの無駄に広い豪邸で、心が折れそうになりながらも耐え忍ぶ時間を繰り返す。これからの恐怖と寂しさと不安を抱えて、それでも泣かないようにと言い聞かせ、ただただ昔に思いを馳せる。
あの、息苦しい日々を、また。
バルコニーには思ったよりも沢山の人がいた。みんな夜風に当たりたいんだな、とその光景を眺めてから、入口の隅に立ったまま夜空を見上げる。
さっきまで月が見えなかったのは雲が覆い隠していたからなのかと、今では顔を覗かせている半月を見つめて思った。
特別綺麗な夜空じゃない。星は見えないし、月だって輝いているわけじゃない。だけど私はなぜだか、その夜空に一瞬にして惹き付けられた。
こんなふうに空を見上げること自体が久しぶりで、春から梅雨に変わる空気を深々と吸い込みながら、込み上げてくる感情も一緒にしまい込む。
もうちょっと、あと少し、現実から目を逸らしていたい。そう思いながら、やっぱり私は彼のことを思い出す。
たったの一ヶ月半離れただけなのに、煌生を恋い慕う気持ちは、弱まるどころか強くなっていくばかりだ。
無意識のうちにリングに触れて、それだけでもう、あの手を思い出せる。
十年間私を想い続けてくれた煌生も、いつかそれ以上の年月が過ぎれば――二十年経って、三十年経った頃にはもう、その手にはきっと私とペアのリングなんて失くなっている。
今度こそ私との思い出も薄まって、消えていくだろう。
そんな風に考えなければ、煌生を一人にしてしまった罪悪感に押し潰されてしまいそうだった。
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