瞳に映るのは

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視線を落としてバルコニーを一巡したら、誰一人として空を見上げている人なんていなかった。 そこに立っている人は皆、隣にいるパートナーの顔を見つめて会話している。もしかしたらそれが私とレオのような偽りの関係であったとしても、互いがまともな社会で生きていなかったとしても、見つめ合って笑みを浮かべる。 たったのそれだけのことが、今の私には眩しかった。触れ合える距離にいれるだけで、心の底から羨ましかった。 だけど、そんな中見つけた。 バルコニーの隅にひっそりと佇む男性を見つけて、彼が一人で私と同じ様に景色を見つめていることに親近感が湧いた。 私と同じだ……そう思って、彼の横顔を見つめた。 見つめて、そして‪──… 次の瞬間には、両手で口を覆っていた。 瞬く間に時間が止まったような感覚に陥り、驚愕と、焦燥と、戸惑いと、熱いものが喉元まで込み上げてくる。 目を大きく見開きながら、その昂る感情に呼吸さえ止めて、彼の姿を食い入るように見つめた。
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