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とても寂しそうな顔だった。その横顔は、今にも消えてしまいそうなほどに。
胸を鷲掴みにされたような、切ない感覚に襲われる。
どうして彼がここにいるのかと。あまりにも強く想い過ぎて、幻を見ているんじゃないのかと。視界が滲むのを拭って、それだけで消えてしまうんじゃないかと不安になった。
人違いかもしれないと思ったけど、間違いじゃない。
だってその耳には光っている。思わず触れた、私の耳についている物と同じものが。彼は煙草を吸っていて、それは私の記憶にはないものだ。だけどその左手にはリングがあり、再びじわりと視界が歪む。
この空間に二人だけしかいない錯覚に陥るほど、私にはもう彼の姿しか見えていなかった。
今すぐにその体に抱きつきたくて。その腕に強く抱き締めて欲しくて。
手が、足が、名前を呼んだか細い声が、震えていた。
その眼差しを遠いどこかに向けている煌生の、その頭の中には誰がいるのか。それが知りたくて、その瞳に私を映して欲しくて、踏み出したのは衝動的だった。
名前を呼んで届くその距離まで、急くように一歩一歩近付いていく。
この一ヶ月半、何度も心の中で呼び続けた名前を、今にも溢れ出しそうな気持ちと共に吐き出そうとして口を開く。
──けれど。それは、突然後ろから唇を覆ってきた手に遮られた。
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