瞳に映るのは

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そのままズルズルと後ろに引きずられて、目を見開いたまま斜め上を見上げる。私の口を塞いでいる手はとても冷たくて、私を見つめる瞳も冷ややかだった。 「レオ、あいつだ」 インカム越しにルナが発した声はまるで威嚇するかのように低く、私を見つめていた瞳が煌生の後ろ姿に向けられた時にはゾクリと背筋が凍った。 「どうする?始末しようか」 その言葉に思わずルナの手を掴み、訴えかけるように彼の目を見つめれば、その双眸も私を射抜くように見返してくる。 小さく首を振って、「お願い」と囁く声は自分でも分かるほど余裕がなくて、無意識のうちにルナの手を強く握り締めた。 すると、ほんの少しの間だけ絡み合っていた視線を先に逸らしたのはルナの方。 「……見失った。とりあえず戻る」 インカムに話し掛けてすぐに、私の手を掴んで歩きだす。 「ルナ、」 「自分でその手を離したんだろ?」 「……」 「叶羽はどうでもいい人間を助けるために、自分であいつを切り捨てた」 「……」 「このまま戻って、おっさんを見殺しにするわけ?」 「…っ、」 「冷静になれよ」 淡々と紡がれる言葉に私は何も言い返せず、引きずられるように歩きながら振り返った。 段々と煌生の姿が遠くなっていく。その寂しそうな後ろ姿を見つめ続けて、瞬きをした途端に熱い雫が頬を伝い落ちた。
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