瞳に映るのは

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――――― ―――― 「あのー…お一人ですか?」 聞こえた声にゆっくりと視線を移すと、そこには知らない女が立っていて、「中に連れが」とはっきりと断ると、「そうですか」と頷いて室内に戻っていく。 その後ろ姿から腕時計へと目を向けて、長いことこの場所にいたことにようやく気が付いた。 それなのに誰も何も言ってこないのは、多分ここ最近俺が休みなく動いているからだろう。労っているつもりなのか、いつもくだらないやり取りが始まってもおかしくないインカムに誰の声も流れ込んでこなかった。 もうそろそろ戻るかと振り返った時、ふいに、近くで電話している男の声が聞こえてきた。この喧騒の中、その音だけ切り取ったかのように耳に届いた"ある言葉"が、自然と俺の足を止めさせたのだ。 そいつを見たら薄汚れたスーツを着ていて、そこまで大きな組の人間じゃないことが一目で分かる。 そいつの口から再び出た"その言葉"に、今度こそ眉を顰めてゆっくりと近づいて行った。 男は誰かに電話をかけながら、確かに言った。 「叶羽ちゃんの写真だよ」 そして、背後に立つ俺に気付くことなく、その名前をはっきりと告げた。 勿論それを聞いて黙っていられるわけもなく、男の腕を掴んで強制的に振り向かせると、俺を見上げてくる目が大きく見開かれる。 「今なんて言った?」 「えっ」 「今、なんて言った?」 「…はぁ?」 「叶羽が、何」 俺の言葉にそいつは眉間に皺を刻み、まだ誰かと繋がっているはずの電話を俺から遠ざけるように背中に隠そうとする。 「……もしかして、お兄さんも叶羽ちゃんの写真狙い?」 「……」 「だったら彼女、ついさっきまでそこで休んで…って、ちょっと!」 有無を言わせずにそのスマホを奪い取って、必死になって手を伸ばしてこようとする男の腕を避けながら写真のフォルダを開いた。
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