瞳に映るのは

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広間の扉を抜けた時、父さんがそこに現れて、その様子からは見つかっていないことが分かる。 「これだけ人が多かったら把握出来ないな」 父さんが煩わしそうに口にした時、『いました』と、咲夜の声が聞こえてきて、父さんと顔を見合わせたまま次の言葉を待った。 『恐らくハルだと思われる人物です』 「白のドレスを着てた」 『それならハルに間違いありません。……ただ、三十分前には会場を出ています』 言いづらそうに紡がれる言葉に、すぐにその意味を理解した。 それでも駆け出した俺の背中を、「煌生!」と呼びかける父さんの声が追い掛けてくる。 会場の入口を飛び出して、二つの方向に分かれている道路を交互に眺めては、どちらに向かったのかも分からずに立ち尽くした。 あの島のように監視カメラが行き届いているわけじゃないこの場所で、車種も分からない車を追跡するのは無理に等しい。 そんなことは分かっているけれど。 「煌生…」 「…くそっ、」 その場所にしゃがみ込んで、余裕もなく髪を掻き乱す俺の肩に父さんの手が触れた。
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