251人が本棚に入れています
本棚に追加
"ヘラヘラしてんな。気持ち悪い"
そんな心の声が聞こえた気がして、いつその毒舌が飛び出すのかと身構える。
そんな私から顔を逸らしたルナはいきなり着ていたティーシャツを脱ぎ始めて、驚く私とミホさんを他所に、一人でさっさと歩いて行ってしまう。
そしてズボンを履いたまま海の中に消えていく姿は、相変わらず自由だった。
「ルナが消えたから特訓終わり〜」
砂の上に広げてあるシートにごろりと横になったミホさんは大きく伸びをして、仰向けに倒れたまま隣をポンポンっと叩いてくる。
そこに腰掛けて陽の眩しさに目を細めた時、「ずっと聞きたかったんだけどさぁ」と、ミホさんが話し始めた。
「叶羽は記憶が戻ってんの?」
「……」
「あのおじさん…えっと、主教様だっけ。あの人叶羽のことハルって呼んでるでしょ?」
「……」
「そもそも記憶がなかったのに、よくあの場所に行けたよね」
私が無言の間にも話を進めるミホさんから再び海に目を向けて、それでも尚沈黙を通した。
もしかしたらミホさんがこうして聞いてくるのは、何かレオに探りを入れるように頼まれているからだと思ったから。
記憶が戻ったことも、なぜあの島に辿り着いたのかも、レオには言っていない。別に聞かれてもいないし、私のことを自ら話す必要もなかった。
私の気持ちを察したのか、「別にレオに聞かれたわけじゃないよ」と事前に教えてくる声に、「だったらなんで?」と聞き返す。
「んー…あまりにもあんたが人間らしくなってるから興味が湧いただけ」
「興味?」
「そ。なにせここにいる連中はみんなロボットみたいじゃない?笑わないし、泣かないし…感情が欠けちゃってるから仕方がないんだけどさ」
「……」
「叶羽もずっとそうだったのに、この一年であまりにも変わり過ぎてるから、ただの生物学的な興味」
「そうやって話すミホさんも今みたいに他人に興味を持ってるから、Noirの中では変わってるよね」
「まぁね。でも人に興味はあったとしても信用はしてないよ。私が唯一信用出来るのは、自分とお金とPCだけ」
「そうなの?レオは?」
「レオは一番信用出来ないタイプでしょ」
「……」
ははっ、と乾いた笑みを零す彼女の顔を、目を瞬かせながら見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!