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「ゆづ戻ってるかな」
「私電話してみるよ」
ポケットからスマホを取り出してゆんの連絡先を探し出す。しかしそれを押そうとして、まてよ、と留まった。
「もしルナとゆんがお楽しみの最中だったら邪魔しちゃうよね?」
「あ。確かに。だけどそれだと急に帰ってきたらもっと焦るんじゃない?」
「あ、そっか。じゃあやっぱり電話した方がいいよね」
「まぁお楽しみの最中に割って入るのも楽しそうだけど」
「じゃあ電話しないでいきなり突撃する?」
「そうしよう。鍵は掛かっててもなんとかなるし」
「それいい!焦るルナが見たい!そして願わくばゆんの裸を」
「はい、そこの二人。まともじゃない会話を普通にしなーい」
麗と顔を見合わせてにやりと笑う。今まで麗とゆんには煌生とのことで散々はめられてきたけれど、仕掛ける立場がこんなにも面白いとは思わなかった。
結局電話をせずにスマホをポケットにしまった。
――しかし、ウキウキしていたのも束の間、ふと些細な違和感を覚えた。
それは麗も同じだったようで、何も言葉を交わしていなくても、私達はほぼ同時に足を止めていた。
「ん?どうしたの?麗さんもハルも怖い顔して」
ただ一人、気付いていないケイが不思議そうに尋ねてくる。私と麗は静かに辺りを見渡して、たった今感じている不穏な空気を改めて確認した。
「パリのスリの常習者は日本人女性をカモにしてるっていうけど」
「そんな感じじゃないね」
麗に続けて発言すれば、ケイは状況を察したのかそれ以上質問を口にしない。その代わりに、はぁ、と溜め息を吐いた。
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