真実の愛とは

66/86
前へ
/851ページ
次へ
その一瞬が勝負だった。 「ハル」と、麗が私の名前を呼んだのを合図に、反射的に腰を曲げる。すると麗が勢いよく振り上げた脚が私の頭を通過して、私を捕まえようとしていた男の横っ面を打ちつけた。更に自分の前に立っている男の顔面には目にも留まらぬ速さで拳を叩きつける。 その間にケイのそばに移動していた私は、目を見開いている男の手を掴んで容赦なく捻った。短い悲鳴と共に銃を手放したそいつの目を狙って指で突くと、ケイの「うわぁ…」という声が耳に届く。助けてあげたのにどうしてそんな反応をされなきゃならないんだ。心外だった。 けれど休んでいる暇もなく別の男が襲い掛かってきた。胸倉を掴まれそうになり、寸でのところで躱すと、逆にその腕を掴んで相手の脚を内側から弾く。ぐるんと華麗に回転した男の体は地面に叩き付けられ、そのまま踵落としを食らわせた。 ちらりと横を見れば、ちょうど麗がその長い脚で対峙している男の足を払ったところだった。仰向けに倒れた男を見下ろして、彼女は唇に綺麗な曲線を描いて笑う。 「今ね、凄く喧嘩したい気分だったの」 この場にそぐわないような嬉々とした声で告げながら軽やかに振り下ろされた拳は男の鳩尾を深々とえぐった。呻き声に混じって、ケイの、うげっ、という声が聞こえる。 残り一人。麗の背後に佇む男を視界に捉えた私は、助走をつけて駆けると、麗の肩に片手をついた。すると麗はまるで私がくることが分かっていたかのように私の体重をしっかりと支えてくれる。そのままジャンプをして飛び蹴りを食らわせると、男は弾け飛んでゴロゴロと転がった。
/851ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加