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すると男は何かを話す前に私の目の前にスッとスマホを差し出してきた。すぐにそれが私のものだと気が付いて目を見張る。そこに表示されているのがルナの連絡先だということに戸惑いを隠せなかった。
「英語は分かるか?」
「……ええ。分かるわ」
「話が早いな。今の状況は理解出来ているか?」
「……」
「お前は人質としてここに連れてこられた。そして今から電話をかけて助けを求めてもらう」
「なんですって?」
「お前はただ一言『助けて』と言えばいいんだ。あとは俺がこの場所を奴に伝える」
「……」
「余計なことは話すなよ」
男が一段と低い声で告げたその内容は、本当に映画のワンシーンでしかなかった。リアルな世界で起こっていることだなんて到底思えず、携帯と男の顔を交互に見る。
すると私がすぐに頷かなかったからか、男がポケットから取り出したのは大ぶりのシースナイフだった。その切っ先を私に向けて、「早くしろ」と告げる。
それが脅しじゃないことを忠告するように、いきなり着ているトップスの首部分から胸元までざっくりと切られた。驚いて目を見開けば、男は今度は私の頬に刃を当てる。服を切られた拍子に切れてしまったのか、肌がヒリヒリと痛んだ。
「奴が来なかったらお前にはここで死んでもらう。死にたくなかったら必死に縋りつけよ」
複数の男に囲まれているこの状況は誰がどう見たってピンチでしかない。もし少しでも私が抵抗したらどうなるのかなんて目に見えていた。
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