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男は画面をタップして電話をかけ始めると、それを私の耳に押し当てた。その狙いがなんなのかいまいちよく分からなかったけれど、ルナを呼び出すイコールルナまでこの状況に巻き込まれてしまうのだということは判断出来た。
だけどきっとどうせ電話をしたところでルナはもう寝ていると思うし、そんな中私から着信があったら逆に電源ボタンを押して切ってしまうと思うんだけど――
しかし、それが僅か五コール目にして通話状態になったことに驚きが隠せなかった。しかも、いつもは私が何度か話し掛けないと返事が返ってこないのに、繋がって早々私の名前を呼ぶ声が聞こえて、さすがに幻聴かと思った。
ナイフを向けられている恐怖よりも戸惑いの方が隠せず、思わず黙っていると、再び『ゆん』と呼び掛ける声がする。その静かな声音に、ようやく今の状況を思い出した。
「……ル、ルナ…」
『話さなくても分かってる。今のところ何もされてないか?』
「え?う、うん」
『そいつらの狙いは俺だ。大人しくしてればゆんが傷付けられることはない』
何も話していないのに、なぜだかルナは今の私の状況も、彼らが望んでいることすらも、既に把握しているみたいだった。
意味が分からなくて眉を寄せた時、目の前にナイフの切っ先が翳された。そして、早く助けを乞え、と目で訴えられる。
だけどルナが狙いだと分かっていて、助けを求められるわけがなかった。寧ろ、ルナをここに近付かせたらいけない。
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