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いきなりさっきと同じ場所をぶたれて視界が大きく揺れた。苛立たしげに細まる男の目に強く睨まれて、身が竦む。
「だったら、あんたの指を一本ずつ折っていくのと口を割るのはどっちの方が早いだろうな」
「…っ、」
「まぁ、大抵の女は痛い目にあう前に素直に話す」
スス…と手を撫でられて、それが指に触れた途端に息を飲んだ。男の目は本気だった。
なんて理不尽なんだろう。話さなければ折るだなんて、そんなの冗談じゃない。冗談じゃないけど、きっと男は本当にやる。
だけどそれでも、恐怖よりも勝る感情が私の胸を熱くしていた。
「何本折ったって構わない」
「……」
「やりたいなら勝手にやればいい」
恐怖にも勝る感情――それは"怒り"だ。どんな理由があるにせよ、ルナを傷付けようとする奴らは許せない。それに、私が何かを話すことでルナを危険な目に合わせてしまう可能性があるのなら、言う選択肢なんてあるわけがなかった。
私の挑発するような態度に男の顔色が変わる。指を掴む力が強まり、ぞくりと悪寒が走った。
次の瞬間、壮絶な痛みが――
「……大変です!」
「あ?なんだ?」
けれどそれは、突如修道院内に響き渡った大声によって妨げられた。
私を含めてその場にいる全員の視線がたった今駆け込んできた男に一斉に注がれる。その人の顔には見るからに焦燥の色が浮かんでいた。
「そ、それが…たった今…っ、」
そして彼は何かを説明しようとする。しかしその途中で、まるで電池の切れた人形のように、フ、と体の力が抜けて、ゆっくりと床の上に崩れ落ちた。
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