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「やめろ」
しかし殴られそうになった瞬間、静かな声が男の行動を制した。
「抵抗はしない。だからそいつは逃がして欲しい」
「ルナ…、」
「そいつは本当に何も知らない。あんたらの言う通りにするから解放してくれ」
拳銃を地面に置いたルナは、それを滑るようにして男に寄越す。
私の髪を掴んでいる男はパッと手を離すとルナの元へと歩いていく。その手には再びシースナイフが握られていて、サーっと血の気が引いた。
「床に膝をついて座れ」
男が指示を出せば、ルナは言われた通りに動く。さっきまで暴れていたことが嘘のように従順で、いつものルナからは想像出来なかった。
爆弾のスイッチを持っている男がルナの背後に回り、その腕を後ろで拘束する。そして捉えたことが分かると、ルナの前に立った男が、いきなりルナの顔側面を思いっきり蹴りつけた。
バキッ、と重い音がして、私が蹴られたわけじゃないのに体に力が入る。けれど蹴られた当のルナはまるで痛みを感じていないかのように、無表情のまま男を見据えた。
「俺らはお前に恨みがある。だからお前を痛めつけて、嬲って、息の根を止めてやりたい」
「……」
「だがその前に、お前らが今どこまで嗅ぎ回っているのか聞きだす必要がある。言いたいことが分かるよな?」
そう問いかけながら、男はシースナイフをルナの顔の前に翳した。見ている私の方がこんなにも怯えているのに、ルナの顔色は少しも変わらない。それがなんだか無性に怖かった。
自分が痛めつけられても構わないと思っているようなその態度が、怖かった。
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