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sacrifice.00
繰り返し、夢を見る。
一度も行ったことのない場所、会ったことのない赤の他人、見たことのない壮絶な風景。
それは毎回違う夢だ。そして毎回とても不快だ。
人が死ぬのも血が流れるのも日常茶飯事。夢の中なのに怒声が聞こえたり、悲鳴がリアルだったり。その原因は事故であったり、殺人であったり、或いは自殺であったり。轢き逃げ、誘拐、通り魔、放火……
今回の登場人物は若い男だった。フードを被っていて顔はよく見えないけれど、もう一人そこに立っている男と比べるととても背が高い。左手で煙草を吸っていて、反対の手はポケットにしまっている。高めの鼻梁が印象的な、落ち着いた雰囲気を持つ男性だった。
私はその光景を冷静に分析する。そして、なんとなく察するのだ。
背の高い彼はもうじき死ぬ。
ぼうっとそんなことを考えた時……突然もう一人の男が懐からピストルを抜き取り、背の高い彼に向けた。一発、二発、三発――銃弾が彼の体を貫いた。
撃った男は颯爽とその場を走り去る。残された彼は壁に寄り掛かったままズルズルとその場に座り込んだ。きっとあの出血じゃすぐに息絶えるだろう。
"それ"は人が死ぬ瞬間だった。長身の彼は、会話をしていた矢先にいきなり殺されたのだ。
誰もいない路地裏だ。助けはこない。あの傷じゃ当然助からない。
──…ああ、また人が死ぬのか。
それはいつもと同じだ。人は死ぬ瞬間、痛みに苦悶し、涙を流し、絶望する。
そんなことを考えているうちに徐々に視界が霞み、ふっと目の前が真っ暗になった。そこにはもう彼の姿はなかった。
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