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「どうして俺に話さなかったんだよ」
「作戦のこと?それなら、君が今みたいに文句を言うことが分かっていたからだ」
「文句も言いたくなるだろ。あんたはいつも自分のことを顧みない傾向にある。代わりになるとか簡単に言うけど、それがどれだけ危ないことか分かってんのか?」
「だったら何?じゃあ君が女装でもする?」
「だから俺はそういうことを言ってるんじゃなくて、」
「あと十分だ。くだらない説教なら後で聞く」
ぱっと目を逸らして扉の取っ手を掴む。しかし、その手を右京の手が上から押さえた。
「いいか。お前はまずは他人の命を守る前に自分の命を大切にしろ。こんなことずっと続けてたらそのうち本当に死ぬぞ」
話しながらもぎゅっと握られた手。真剣に話す右京を見上げながら、触れている部分からその"気"を感じとった。
この前もそうだったけど、どうして右京はそれほどまでに私を想って悲しくなるのか。理解出来なかった。
「そんな風に言うけど、君の考えは根本的に間違ってる」
「間違ってる?」
「ミガワリの力は他人を救うためにある。だから私の命も、生まれた時からずっと他人を守るためにある。それはこれからも変わらない。例えそれで死んでも構わない」
「美澄、」
「それに死んだら……見たくないものも、もう見なくていいから」
「……」
最後の一言を告げた瞬間に、右京の手の力がフっと弱まった。その隙にドアを開けて素早く外に出る。しかしすぐに、たった今の言葉を激しく後悔した。
確かこの前の颯の墓参りの時もそうだ。私は右京の前で、『私も死ねば良かった』と弱音を吐いた。そして、今も。
"見たくないものを、もう見なくていい"――なんて。
誰かの前でその気持ちを吐き出してしまったことが、自分でも信じられなかった。
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