5人が本棚に入れています
本棚に追加
ふわふわと夢の中にいた。けれどそれは一瞬で、ふっと景色が一変する。……ああ、入ったな。と、はっきりと認識した。
薄暗い道だった。遠くに街灯がぽつんとあり、月明かりがじんわりと広がっている。なんとなくあの失礼な男と顔を合わせた時の光景と似ていた。
道の上に、こちらに背中を向けて歩いている一人の存在を見つけた。背の高さから男性だろうと分かった矢先、ピンっと閃いた。
あれは昨日の男だ。そしてそれはきっと、今朝藤花に話した予想通りの未来だろう。彼はやはり何者かに命を狙われている。
だけどそこには犯人の姿はない。どこから彼の命を狙っているのか―――刹那、男の背中の左胸付近から血飛沫があがった。二発の弾がそこを撃ち抜いたのだ。
タタタ、と誰かが駆ける足音がする。犯人が逃げて行き、男はその場に崩れ落ちた。それから間もなくして一台のワゴンが到着し、男を回収する。死体を処分するのだろう。
一度ならず二度までも命を狙われるなんて、男はなんの恨みを買っているのか。そんなことは分からないけれど、とりあえずあんな殺され方をするなんて、裏社会と関係を持っていることは確かだった。
「……羽衣ちゃん、起きて。もうそろそろ四限が終わるから戻ろうよ。お昼ご飯食べる時間がなくなっちゃう」
ゆさゆさと肩を揺らされて、ふっと意識が戻った。
どうやら一瞬で居眠りをして、あの男の未来を覗いてしまったらしい。なんとなくもう一度視る気がしていたので特に驚くこともなかった。
のっそりと起き上がって、今視たものを頭の中で反芻させる。彼を助ける気は更々ないけれど、一応藤花に連絡しておこう。
「羽衣ちゃんの寝顔って本当に綺麗だよね」
「写メ消してね」
「え」
「どうせ撮ってるのは分かってるんだ。消さなかったらこのペンチと屋上の鍵を持っていって君が壊したことを教師にバラすからな」
「うぬっ…小癪な!」
じろりと睨みつければ、世莉は悔しそうに顔を歪めたものの、渋々スマホを操作して数十枚に及ぶ写メを削除した。
最初のコメントを投稿しよう!