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情報屋に呼び出されたのは三日前と同じ場所だった。あの時は意味の分からない女に邪魔をされてどうなることかと思ったが、改めて約束を取り付けることが出来た。
もしこれで情報が手に入らなかったら、何が何でもあの女を見つけ出して文句の一つでも言っていたところだ。とはいえ、あれからずっと女が言っていたことが気になっていたのも事実だった。
情報屋が俺を殺そうとしていたなんて――まさかな。いや、決してヤツを信用しているわけじゃないけど、仕事を頼む上ではあの男ほど信頼出来るやつはいなかった。今まで何十回と手を組んできたけど、一度たりとも互いに裏切ったことなんかない。
それなのにあいつが俺の命を狙った?それも、俺の未来を見ただと?
……考えれば考えるほど馬鹿げている。とんだ茶番だ。
「あのー…お忙しいところ申し訳ありません。ちょっとお話ししたいことがあるのですが」
歩きながらも煙草に火を付けようとした時、ふいに声を掛けられて、一瞬ギクリとした。またあの女かと思ったのだ。
しかし振り返るとそこには別の女が立っている。見知らぬ顔に、煙草を咥えたまま固まった。
「こんばんは。あの、三日前に頭のイカれた女性に出会った殿方で間違いありませんか?」
「……」
「ほら、未来が視えるとか言って、去り際に次は死ねって吐き捨てて逃げた女性、覚えてませんか?」
「……覚えてるけど、何?」
「ああー!やっぱり!やだ、凄く素敵!本当に熟成バルサミコ酢!」
「は?」
「王子様ってことです!美形だって言われません!?言われますよね!?」
なんの呪文を唱えているのかは知らないが、それと美形になんの関係があるのか。疑問に思いながらもとりあえず煙草に火を付けて、じっと女を観察した。
どうやらあの女と知り合いらしい。友人…だとしたら、少し大人っぽい気もする。長い黒髪が印象的な、清楚な雰囲気を持つ綺麗な女だった。
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